2014年に発足し、「和食“鍋焼うどん”」×「伝統芸能“落語”」の魅力を多くの方々に伝達していくことを目指した文化啓発活動である『キンレイ心染プロジェクト』の卒業生インタビューページです。
第七回は法政大学落語研究会より心染プロジェクトに参加し、現在は落語芸術協会真打 柳亭楽輔(りゅうてい らくすけ)門下で前座修行中の柳亭楽ぼう(りゅうてい らくぼう 本名:田辺 康)さんにキンレイ心染プロジェクトでの活動の思い出、現在の活動について語って頂きました。
インタビュアーはキンレイ心染プロジェクト卒業後、プロの漫才コンビ「まんじゅう大帝国」として芸能事務所(株式会社タイタン)に所属し活躍している田中永真さん・竹内一希さんです。
田中 今回は今までのインタビューとは一味違うね。
竹内 はい、初パターンです。法政大学を卒業後、落語芸術協会真打 柳亭楽輔師匠のもとで、前座修行中の柳亭 楽ぼうさんです。
楽ぼう お久しぶりです!今日はよろしくお願いします。
竹内 学年は僕の一つ下で田中の二つ下だから、2018年卒業だよね。法政大学落語研究会では酒乱苦雑派(しゅらんく ざっぱ)って高座名でみんなから“雑派”って呼ばれていたね。
楽ぼう 今考えるとすごく恥ずかしいですね(笑)。
田中 僕とはギリギリ学年が被ってるけど、心染プロジェクトでは一緒になることはなかったかな?
竹内 参加するのが遅かったんじゃなかったっけ?
楽ぼう そうですね。3年から参加したから、田中さんと心染プロジェクトの活動でご一緒する機会はなかったですね。
田中 そうだよね。どういうきっかけで参加したの?
楽ぼう 単純に落語ができる機会が増えるのは良いなぁと思ったのと、後輩たちにもそういう機会を繋げていきたいと思ったからですね。
田中 その当時の法政落研って他の大学と交流したり、外に向けて活動することが少なかったもんね。
竹内 人数も一学年2~3人とか、少なかったような。
楽ぼう そうですね。僕たちの代くらいから後輩の部員数も増えていったので、落語をする機会が増える良い機会だと思って、参加しました。
竹内 参加してみて、それまでの落研での活動と違いはあった?
楽ぼう はい。特に学校に行って生徒に食育の授業と絡めて落語をする会とかはすごい印象に残ってますね。
田中 「出前授業」だね。僕らの時にはまだなかった企画だ。
楽ぼう 茨城県の筑波にある中学校※でしたね。体育館に中学生が大勢いて。確か、それが心染プロジェクトでのデビュー戦でしたね。
※2016年11月8日 茨城県つくば市立百合ヶ丘学苑筑波西中学校にて「出前授業」を開催。
竹内 そうなの!?大変じゃなかった?落語やる以外にも生徒に落語を教えたりする時間もあったり。
楽ぼう そうですそうです。その部分は何回か「出前授業」を経験していた先輩がいたので、僕の分もカバーしてくれました。このプロジェクトならではの“食文化”と“落語”を繋げる象徴でもある「時うどん」もその先輩が演じてくれたので、僕は好きな落語をさせてもらいました。
竹内 そうだったんだ。生徒たちと給食は食べた?「交流給食」は楽しかったでしょ?
楽ぼう 食べました。あれはすごい体験でした。今でこそ「出前授業」の価値とかやることの難しさがわかります。「出前授業」での内容は、落語界の師匠方がやられていることですから、大学生が “江戸文化代表”で登場させてもらって生徒と交流するのは実はすごいことですよ。
田中 考えてみたら、確かにすごいことだね。
楽ぼう この世界入ってからでも、真打の師匠方にならないと落語教室は任されないので、食文化と落語を絡めた内容を、大学生が先生役になるっていうのは大変なことですよ。
竹内 「出前授業」は真打レベルの内容なんだね。
田中 その「出前授業」以降も「出張落語会」に参加した?
楽ぼう そうですね。何度か出させていただきました。「出張落語会」で場数を踏んだことで、得たものは大きいです。
田中 「出張落語会」とかで、一般の人に向けて落語をやって、笑いを起こせると嬉しいよね。古典落語そのもののすごさを改めて感じさせられたり。
楽ぼう はい。多くの人と落語を通じて交流できたのも、その当時は貴重な経験でしたし、落語家になったきっかけの一つとして、古典落語から笑いをとる嬉しさが積み重なっていったっていうのがありますね。
竹内 でも、まさかプロの世界に行くとは思っていなかったなあ。最初に聞いたときは驚いたよ。落語を好きなのはわかってたけど。好きな人ってそのまま“好き”を通す人も多いじゃない?観客側として
田中 落語を観たり、聴いたりするのが好きな人ね。
楽ぼう 普通はそうあるべきですよね(笑)。ただ、落語が好きと言っても、心染プロジェクトでやる落語とか、大学の落研にくる依頼・慰問とかでやる落語を好きじゃないと、プロにはなれないと思います。
竹内 ああ、なるほど。学生同士で楽しむ落語が好きだと難しいってことかな?
楽ぼう そうです。やっぱり、一般の人に向けてやる落語が好きで、一般の人から返ってくる反応が好きだったので。そういうのは高座の回数を重ねて気付いていきましたね。
田中 学生落語は落語をフリに使って、落語を崩すことが多いからね。
楽ぼう そうですね。落語を崩すのが好きなまま、落語家とかになっちゃうと、前座時代は壮絶な時期になってしまうでしょうね。落研時代の経験は全く必要なくなるので。落研の良さっていうのは落語と出会えて、落語を好きでいれる期間が4年間もあるってところなんですよね。そういう気持ちの面でプラスになりますね。
竹内 じゃあ、好きを仕事にしたわけだ。
楽ぼう そうですね。ただ、好きを仕事にする難しさはやっぱりありますね。
田中 好きを仕事にするって本当にできるかな?個人的には、好きなものは好きなままの方が良いと思う。仕事にしたら、好きじゃなくなる気がして。
楽ぼう 確かにそうかもしれないです。ただ、僕の父もずっと映画が好きで、映画の専門学校行って、映画の製作に携わっているので。だから、僕の人生のわがままに寛容だったのは、父が自分の好きな事をやっているからなんです。
田中 あ、そうなんだ!?
楽ぼう はい。好きな事を仕事にしている父が楽しそうに見えたんです。
竹内 カッコいい親子関係だね。
楽ぼう ただ、落語家になる前に「好きを仕事にするってことは嫌いになる可能性が高いから、そのリスクを背負ってでもなるのか?」って話はしたので、その辺りは父も田中さんと同意見かもしれないですね。落語家はまず、落語が好きであること。あと、こっちの世界の言い回しですけど、自分の師匠をしくじらなければ、やっていけるんです。なので「嫌いになった瞬間辞めろ」と入門した時、師匠に言われました。落語が上手い下手ではなくて、落語を覚えることとか、やることが面倒になった瞬間に辞めた方が良いって強く言われましたね。そこはお笑いの世界とは違うかもしれませんね。
田中 へえ、改めてそういう話を聞くとお笑いの世界とは似て非なるものがあるね。今、前座修行中だけど、一番つらいことってある?
楽ぼう 前座中の4年間、ほぼ変わらない前座メンバーとずっと一緒にいると、そこでの関わり合いが、全てになってしまって、ちょっと恐ろしくなってしまう時はありますね。そういうのに染まるっていうのも修行の一つではあるんですけど。
竹内 そうなんだ。でも、落語界って、全員が一体となって若手を育成している気概があるよね。そういうところも魅力だと思う。
田中 そうだね。
楽ぼう ところで、こんな僕なんかがインタビュー形式でお二人と喋らせてもらっていますけど、心染プロジェクトの活動も多岐にわたってきましたね。
竹内 そうだね。この卒業生インタビューもそうだけど、「出前授業」は企画として始動してから年々、開催数も伸びていって5年間で21回※も開催してるよ。
※2020年2月までの開催実績
楽ぼう へえ!すごいですね。「出前授業」みたいなことができる活動って、他にないでしょうし、大学生が教育のフィールドで勉強させてもらうのは、改めて貴重な経験ですね。
竹内 給食を食べるってことも、中々ないもんなぁ。
田中 落語家になって、心染プロジェクトの活動も含めて、落研に所属していて良かった事とかってある?
楽ぼう 心染プロジェクトで落語をする時は、先方にも事務局にも大人がいて、学生も大人として扱われるので、一種の職業体験としての経験値は活きてますね。あと、心染プロジェクトは学生も主体者として見られるので、社会勉強ができて貴重な経験でした。
竹内 こればっかりは経験しないとわからないことだよね。
楽ぼう 落研同士で楽しむのも良いんですけど、やっぱり、打ち合わせとか、過程を通じて同じゴールを目指して一つの会を作り出すっていうのはどこの世界でもそうですけど、やっていて良かったなと思いますね。
田中 心染プロジェクトは大人とコミュニケーション取っていかないと何も進まないもんね。
楽ぼう そうですね。ただ、さっきの話に戻るんですけど、落語家になってみて、その世界で死ぬまで関わり合いを持っていく人たちと最初の関係性を築くのは、学生の時のままの気持ちじゃ難しかったですね。切り替えるのが大変でした。
竹内 そうかぁ。特に師弟関係なんて親子みたいなものだもんね。
楽ぼう あ、それは大変でした。師匠から名前をもらうっていうのは、その師匠の子どもになるので。師匠がいるから、落語界で生きていける。ウチの師匠に最初会った時に「すぐには答えが出せない。これは一人の人生を預かることだから。今、君が来てくれたことは嬉しいけど、この世界では親と子の関係になるから、俺で良いのかもう一回ちゃんと考えろ」って言われましたね。で、もう一回ちゃんとお願いして、入ることができて、今こうして修業ができているのも師匠がいるからできることなので。親代わりですね。
田中 もう一つの新しい人生だね。
竹内 それは普通の社会人にはない感覚だね。
楽ぼう そうですね。師匠が白と言えば白だし、黒と言えば黒になる。自分の価値基準を全て師匠に預けるので、ましてや前座が意見を言う権利なんて一切ないです。自分の正解が前を歩いているって感じですね。師匠の一挙手一投足で自分の価値が決まります。
田中 面白いね。
楽ぼう 師弟関係に加えて、兄弟子がいて、弟弟子がいて、同じ親を持った人が集まって一門になって…。色んな形の関係性がそこかしこにあるので、逆に正解・不正解がないですね。これをやったら成功するとか、これがをやったら拙いっていうのが一切なくて、なので、自分の師匠をそのまま真似しても成功するとは限らない。自分の居場所を見つけて、自分のやり方を工夫して、自分の正解を見つけないといけないですね。マニュアルが一切ない。
竹内 それをこれから一生かけて探すんだね。
田中 人生の冒険をしているね。すごい険しそうな道だろうけど。
竹内 そんな前座修行中の楽ぼうさんから、今の心染メンバーにアドバイスとかありますか?これから心染プロジェクトに参加する子がいるかもしれないし。
楽ぼう 学生落語で他大の人との交流とかって自分の意志がないと出会えなかったり、生み出せないですけど、心染プロジェクトは違う大学と巡り合わせてくれるので、すごく有難いですよね。同じ目標があって、そこを目指して色んな落研の人が所属している活動に参加できるのは、特に一年生とかだったら嬉しいと思いますね。
田中 他にあまりない活動だしね。
竹内 一年生から参加していたら、自分の落研とは違った人との繋がりが生まれやすいよね。
楽ぼう キンレイさんが交流の場を設けてくれるのは心強いですし。「出前授業」とかは落語家さんが教えるのとは違って、大学生が教えることで生徒との距離が近づくので、子どもたちは大学生と交流しながら落語や食文化を学んで、最後は一緒に給食を楽しく食べるっていうプロセスを踏めるんですよね。そういう意味でもこのプロジェクトは有意義ですね。
田中 今後、もっと発展していくと、卒業生としても嬉しいね。
楽ぼう そうですね。プロジェクトの活動と一緒にキンレイさんの商品も知られていくと良いと思います。
竹内 お、キンレイ商品は今でも食べたりする?
楽ぼう スーパーとかで見かけたらつい買ってしまうことが多いですね。学生の時に試食させてもらう機会が何度かあったんですけど、その時の美味しさが忘れられなくて。
田中 ちゃんぽんは食べたことある?
楽ぼう あります。麺がとてつもなく美味しいですよね。
竹内 そうそう。
楽ぼう 一人暮らしを始めたので、今後重宝していきます。鍋で温めるだけで、簡単に美味しく頂けるので。
田中 あ!この「横浜家系ラーメン」はすごいよ。
楽ぼう 家系ラーメンですか!?ぜひ買います。前座仲間にも教えます(笑)。
【柳亭楽ぼうさん
プロフィール・公演情報】
・2018年法政大学社会学部社会学科卒業。同年、落語芸術協会真打 柳亭楽輔(りゅうてい らくすけ)に入門後、前座修行中。2020年5月より、道楽亭Ryu's Bar(新宿二丁目)にて前座勉強会「集まれ!前座さん応援団未来の名人を聴け」に6代目レギュラーとして毎月出演予定。続報・詳細はTwitter 道楽亭@Dorakuteiよりご確認ください。
【インタビュアー:
まんじゅう大帝国 略歴】
株式会社タイタン所属の漫才コンビ。2016年6月コンビ結成。2017年4月デビュー。大学時代は互いに落語研究会に所属し、学生落語の全国大会で優秀な成績を残す。2017年4月に株式会社タイタンに所属しデビュー。フジテレビ系『ENGEIグランドスラムLIVE』『ネタパレ』などに出演し注目を集める。
【その他、受賞歴等】
・フジテレビ「ENGEIグランドスラム」「ネタパレ」
・WEB CM パイロットコーポレーション フリクション「ネタ帳」
・MV ゼスプリゴールドキウイ「アゲリシャス」
・TBSラジオ「マイナビラフターナイト」月間チャンピオン
(2017年6月/2018年11月)
・第3回未完成映画予告編大賞「MI-CAN男優賞」(竹内一希)
・2020年1月29日より、初のDVD「詰め合わせ」発売
【関連リンク】
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・まんじゅう大帝国 公式twitter
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